Dr.パルナサスの鏡



ヒース・レジャーの急逝により完成が危ぶまれたこの映画。映像が素晴らしい。最初から最後まで、パルナサス博士の頭の中の世界にうっとりしてしまう。





舞台はロンドン。悪魔との契約で不死を手に入れたパルナサス博士。彼の移動式劇場が街をゆく。鏡の中に入った観客は別世界を楽しむ。それは自らの願望が具現化された別世界。しかし、古びた劇場に振り向く人は一握り。貧しいながらも、自由気ままに街をゆく一行。だが、パルナサス博士だけは何かに怯えている。そんな時、トニーという怪しい男が仲間に加わるが・・・





鏡の中「イマジナリウム」は想像の世界。そこでは欲望のままに、人は過ごすことができる。欲しい物が手に入り、自らが望む姿に変わることもできる。トニーは観客と共に何度か鏡の中に入るが、顔が毎回変わってしまう。それは、観客の欲望がそうさせたのか、自らの欲望がそうさせたのか。とにかく、「イマジナリウム」だからなんでもありなんだわ。





ヒース・レジャーが生きていた間に、鏡の外の撮影は済んでいたらしい。「イマジナリウム」の撮影だけ、ジョニー・デップたちが代わっている。最初から想定されていた訳ではないんだろうね。しかし彼の死があったからこそ、鏡の中の「想像的な世界」がより「リアル(?)」に描かれている。この映画は、監督の技術や想いや強運、ヒース・レジャーの演技や想い、共演者の演技や想い、どれか一つが欠けていたら完成しなかった。そう考えると、運命的な映画なんだと、私は思う。





「イマジナリウム」に迷い込んだ人は選択を迫られる。それが良識ある選択ならば博士の勝ちとなり、堕落を選べば悪魔の勝ちとなる。テリー・ギリアムが、この作品を完成させる「選択」をしたために、人類の歴史に(おおげさかな)、このような運命的な作品が刻まれた。





それでも、悪魔はどこかでパイプをくゆらせて、また誰かに選択を迫るんだろうなあ。