Benaki Museum—Pireos Street Annexe、複数の作品(2) | documenta 14 Athens

5年に1度の国際芸術祭ドクメンタのアテネ会場を見てきました。

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documenta 14
Athens

Venue Number [3]
Benaki Museum—Pireos Street Annexe
http://www.documenta14.de/en/venues/15228/benaki-museum-pireos-street-annexe
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Tshibumba Kanda Matulu
“101 Works” (1973–74)


101枚の絵画が展示されています。作家はコンゴ民主共和国出身。絵のモチーフはおそらくコンゴにおける歴史的/政治的な象徴を描いていると思われます。金の時計を身に着けた権力者風の男性の描写や、軍隊に描写が目に残ります。

Tshibumba Kanda Matuluの一連の絵はドイツの人類学者Johannes Fabianによって依頼された絵画で、コンゴ動乱を中心とした様々な歴史的事件を描いたものになっています。1941年のエリザベスビル大虐殺、1960年パトリスルムンバ(初代首相)の独立運動など。作家はパトリス・ルムンバを敬愛しており、本作の中でルムンバとキリストを重ね合わせる描写がいくつもあります。


ルムンバは反植民地化運動の中心的な存在として活躍しましたが、共産主義者だとレッテルを貼られるなど様々な抵抗にあいました。ルムンバの対抗勢力側についたのはだいたいが西側諸国。植民地支配から解放しようと活躍する存在を、適当な理由をつけて共産主義者だとして攻撃する理由を作るのは東西冷戦時代の定番ですね。ルムンバは現在ではコンゴ動乱における西側諸国の歪んだ介入のある種の象徴として扱われています。彼は対抗勢力に処刑されたのですが、その処刑がベルギーの介入がなければ実現しなかったのではないかとされる調査報告も発表されました。

作家にとってルムンバを取り巻く悲劇は、キリストの受難に重なるところがあるのでしょう。


作家はもう既にこの世にいないとされています。Wikipediaでは「死亡」と記載がありました。documenta14のサイトには「disappeared」とされています。ルムンバのころから影の実力者として暗躍したモブツが独裁体制を確立した後、反モブツの動乱が各所で行われました。作家は動乱/暴動に巻き込まれたとされています。

ドクメンタは国際問題の見本市だと称されることがありますが、この展示を見ても納得してしまいます。


El Hadji Sy
La nouvelle muséologie (The new museology, 2017)


ダカールの作家による新たな博物館学という展示。「展示品、収集品を充実させ、意味のあるものに発展させていくかということについて研究し、また実際にその活動として生かしていく手立て」に関する展示と見た時にマッシュアップされた様々なプロダクトが印象に残る展示でした。



Algirdas Šeškus
Shaman (2012)


シャーマンと題された一連の写真です。顔から想像するとアジア圏かもしくは北極圏近くでしょう。儀式は全体としてみれば神がかっていたり神秘的なイメージを持ちますが、一枚一枚を切り取ると、筆舌しがたい表情(顔そのもの以外でも)を見せてくれます。

作家はソ連時代のリトアニア出身。写真から表現をスタートし、一度はその表現手法を捨てました。ちょうど表現の検閲が緩やかになったこともあって様々な形式にトライしたそうですが、形式にこだわることの無意味さ(?)に気付いてから、人と直接コミュニケーションをとり、そのコミュニケーションの中にあるもの(イメージ)に興味を持つようになったそうです。そして(繰り返しになりますが)写真に戻りました。


Miriam Cahn




Véréna Paravel and Lucien Castaing-Taylor
somniloquies (2017)


1960年代にルームメイトによって収録されたアメリカ人のゲイのソングライターの寝言(それは好色でサディストで幻覚的な内容)と、パリ人肉事件の犯人として知られる佐川一政のドキュメンタリー映像。この2つが展示されていましたが、私は寝言の映像しか見ていませんでした。この2つが展示されていることで、ドキュメンタリーであることと純粋な作り話であることの曖昧な領域を模索するような作品だったのに。


ただ寝言の映像は必見です。寝言であるにも関わらずなぜか持っている現実味。物語性。それがサディストの夢だったと知ったのは後でしたが。


Sergio Zevallos
A War Machine. First Part: Fluid Mechanics (2017)


ペルー、リマ出身のアーティスト。かつてはドイツ人作家を含んだ3名のアーティストコレクティブGrupo Chaclacayoとして活動していたそうです。その作品の過激さ(?)からドイツから追放された後はソロで活動しているとのこと。下記にGrupo Chaclacayoの記事がありました。かなり過激かもしれない。
http://www.e-flux.com/journal/44/60146/queer-corpses-grupo-chaclacayo-and-the-image-of-death/


資本主義社会に関わる個人の生態が戦争につながっていることを、回路図のようなペインティングと、個人の小便によって構成する作品に見えます。小便が本物かどうかスタッフに聞いたら「君の判断によるよ」と躱されてしまいました。臭ってみるわけにはいかないですもんね…。