泰平「startbahn」展を見てきました。


女装の私が、YUKARI ARTで12月16日、17日の2日間限定で開催された、泰平さんの展示「startbahn」に行きました。この企画を知ったのは、Twitter上でフォローしていたTokyoArtBeatのツイートから。「2日間限定」であること。そして2月から始まる新しいサービスのコンセプト展示であること。それらに私の興味は惹かれました。


学芸大学駅から歩いて5分ほどの場所にあるYUKARI ARTは、入り口に毛糸で文字が描かれた可愛らしい門構え。いしかわかずはるさん(YUKARI ART所属のアーティスト)が制作されたとか。中に入ると、藁が敷き詰められた白い部屋。壁際に大きな長机がひとつ。上には2つのディスプレイ、3つの黒いファイル、1セットの資料と名刺。全てに「startbahn」という文字(ロゴ)が描かれています。周りを見渡すと、泰平さんの経歴の紹介が壁にあり、目を下に移すと藁の中に大きな卵(ダチョウ)が3つ転がっていました。黒いファイルを開くと、それぞれ日本、アメリカ、中国(なので3つの黒ファイル)の特許申請の書類があります。在廊されていた泰平さん曰く「startbahn」の仕組みの根幹部分は特許を申請して保護しているとか。日本の特許は5年前に取得されています。このプロジェクトが5年の構想と実行に基づいて作られていました。


「startbahn」は「現在ならびに未来のアートを担う全てのアート関係者を対象にした『インターネット時代のアート』の為のプラットフォーム」として作られた新しい環境です。端的に言うと「作品が流通しやすくなる仕組み」です。プライマリーオークションを経て、作家は作品をコレクターに売ることができます。セカンダリーオークションを通じて、コレクターはプライマリーで購入した自分のコレクションをまた別のコレクターに販売することができます。セカンダリーで販売された作品価格の一定の割合が作家に還元されます。作品が流通するたびに、作家に対して還元され続けます。転売によって作家に対して支払われる割合は変動します。アーティストの活動状況や作品の評価(レビューなど)に影響されます。例えば作品のためのリサーチ/制作期間により発表が行われない時期と、発表を精力的に行なっている時期など。このプラットフォームはSNSのような形式で、ユーザーは登録の際「アーティスト」アカウント、「コレクター」アカウント、「レビュワー」アカウントの3種類から選択します。「アーティスト」と「コレクター」は上記で説明した様に、作品の売買に直接関わります。では「レビュワー」は何をするのか。作品鑑賞後に、そのレビューを寄稿します。私が作家Aのレビューを執筆し、そのレビューを見たコレクターBがオークションで作品を購入した場合、その価格の数%がレビューを寄稿した私に支払われます。これはセカンダリーの際も同様で、購入の意思決定にレビューが関わる場合、寄稿者に還元される仕組みです。


日本語で滑走路を意味する「startbahn」は、その名の通り、若い作家や若いコレクターや若いレビュワーが飛びたち空を翔るための滑走路です。

このサービスが開始されても、発表から制作から購買から批評から何から何まで全てネットに集約されてギャラリーがいらなくなる、といった極端な状況になるとは、私は思えません。作品発表には場所が必要です。その場所はネットだけでなくギャラリーやオルタナティブスペースや公共空間など様々。そしてコレクターは作品の観賞を経て購入します。ネットの低解像度の写真を見るだけで意思決定をするとは到底思えません。技術が発展し、インターネットを通じて極めてリアルに近い体験をするようになったとしても(その体験がスタンダードとなったとしても)、鑑賞者が作品購入の意思決定をしたのであればそれは作品が獲得した事実であって「ネットだから」という言い方はされないでしょう。レビューも然りです。「startbahn」はツールでありプラットフォームです。そこは「世界」ではなく、実際の流通を円滑にする、そして加速させる「ツール」です。評価や作品の動きが可視化されるためにシビアな状況が浮き彫りにされる事があるかもしれませんが、それはただ可視化されただけであって、今も大して変わりません。たぶん。

泰平さんにお話が聞けて、なんだかワクワクしました。2日間限定の展示ではありましたが、これから「アート業界の活性化はもちろん、アートが今後も長く機能し続けるために、国内外に現存するさまざまな問題を解決し、さらに新たな『インターネットの時代のアート』のパラダイムを創造、牽引すべく、その基盤となる環境」のリリースが本当に楽しみです。時間はかかるかもしれませんが、この「startbahn」プロジェクトにより、何かが大きくはばたく気がしてなりません。

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泰平タンブラー
YUKARI ART HP
※写真はYUKARI ART、泰平タンブラーから転載させていただきました。
YUKARI ART SINCE 2006-