Gennadius Library、Banu Cennetoğlu他の作品 | documenta 14 Athens


5年に1度の国際芸術祭ドクメンタのアテネ会場を見てきました。いくつか作品を紹介します。慣れないギリシャ。仕方なくタクシーを使って向かいました。古い図書館での展示です。

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documenta 14
Athens

Venue Number [23]Gennadius Library
http://www.documenta14.de/en/venues/15312/gennadius-library
http://www.ascsa.edu.gr/index.php/gennadius/

Artist
Ross Birrell
Banu Cennetoğlu
Igo Diarra and La Medina
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3つの作品が展示されていました。1つはRoss Birrellによる映像作品。Glasgowにある芸術大学の図書館が消失した事件を題材にしたもの。もう一つはマリのバマコからのキュレーターとアーティストたちIgo Diarra and La Medinaによるプロジェクト作品。「Learning from Timbuktu」と題されたプロジェクトは、遺跡の古さだけでなく、最近のイスラム過激派による干渉を想起させます。Banu Cennetoğluはクルド人ジャーナリスト(でもあり戦士でもある)の日記をもとにした作品です。


Ross Birrellの映像作品は、焼け焦げた空気がまだ漂っていそうなまさにその場で演奏者(主に弦楽器)がライブをしているものでした。


淡々と焦げた柱や焼けた本を映し、本の栞のように演奏者の姿が時々挟み込まれます。会場のGennadius Libraryはもちろん焼けていませんし、これからも焼けることは無いでしょうが。もし万が一ギリシャ国内で激しいナショナリズムが台頭してしまったとしたら、American School of Classical Studies at Athensに属するこの図書館は焼かれるかもしれません。まあ、そんなことは無いでしょうけれども。可能性はゼロではない。

ちなみに、この図書館の名前にもなっているGennadiusさんが本を寄贈しています。もともと彼は国立図書館に本を寄贈しました。しかし、丁寧に分類されていない彼のコレクションを嘆き、現在の図書館をつくったそうです。ざっくりとした説明…失礼しました。色々調べてわかったのですが、ギリシャには14の外国機関があり、そのうち最大のものがAmerican School of Classical Studies at Athensだそうですね。この図書館のある広大な土地はギリシャ政府によってこの機関に譲渡されたとか。国立図書館の何度か通っていたはずなのですが、まったく気づきませんでした。国立図書館は移転が計画されているとか。


Igo Diarra and La Medinaによるプロジェクト作品は図書館の様々な場所に点在しています。



図書館のコレクションに紛れているので、documenta14を知らずに訪れた人たちにとってはGennadius Libraryがトンブクトゥのアーカイブに着手したと思うでしょう。実際に遺跡から発掘されたオリジナルは1点のみで、Igo Diarraたちはそこから様々な作品を制作し展示しています。100日間かけたプロジェクトになっていて、そのアーカイブが冊子となって配布されています。

イスラム文化における文字の記録とその作品だったので、私は中東の作家さんかと思い込んでいました(なんという偏見!)。が、トンブクトゥは西アフリカにあるマリ共和国を流れる川、ニジェール川流域の遺跡。作家さんもアフリカ系の方でした。エリアは違うかもしれませんが、今アフリカではそのイスラム系の住民とその土地に昔からいる住民とその他列強とされるようなヨーロッパ各国との間で様々な混乱が起きていると聞きます。マリ共和国は2012年からの北部紛争によって難民が周辺国へ。



Gennadius Libraryには考古学的に重要な記録も残っていますが、同時に19世紀に刊行された貴重な旅行雑誌のアーカイブも収蔵されています。土地から土地、国から国へと人が移動する理由は様々です。この難民を想起させる収蔵物たちは、旅行というカテゴリーに入るのでしょうか。何に編纂されていくのでしょうか。複雑な気分です。




Banu Cennetoğluは自分より5歳年上のクルド人ジャーナリストの日記を、一日の日記をひとつの石に刻み、残しています。


投獄され拷問をうけた彼女は戦士となりましたが書き続けました。1995年から1997年にかけて、ある時は詩を、ある時は戦いの真実を、ある時は音楽や愛について、107の日記を書き綴りました。知識人と、自由への戦士との違いについて思い悩み続けた彼女は、それでも戦士であることを切望し。1997年にドイツ製の戦車に両足を吹き飛ばされて死にました。彼女の日記は編纂されドイツで出版されます。2014年にトルコでも出版されましたが、政治騒乱の中で発禁となりました。(documenta14 daily bookの内容を抜粋/超訳)

Gennadius Libraryを正面に、建物の入り口から右へ庭に続く細い道があります。そこを歩いた先にある小さな庭にBanu Cennetoğluの作品はあります。ひとつひとつの石が一日一日の日記だと説明してくたスタッフに、途中で終わっている日付を指さして「この後の石はまだ作っているところなの?」と私は質問しました。「この日に彼女は死んだの」と。決して燃えない日記。それが「燃えない石」であることは重要ではなく、日記を刻むこと、その行為と行為に至る動機。決意のような作品だと感じました。